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「くだらない」
彼女は呆れたように眼鏡の奧の目を細め、そう言い放った。
「挨拶代わり?引っ越してきたわけじゃあるまいし。日頃のお世話?だったら日頃返せばいい。……だいたい」
と、溜息を吐いて間を置き、彼女は上目遣いにじろりとこちらを睨んだ。
「シュウヘイにそんな挨拶する義理なんてないっての」
「照れちゃって」
彼はにこやかな笑顔でそう言った。眼鏡の奧の目が遠くを見る。
「怒った顔がまた可愛い。ついからかって怒らせたくなる」
………マゾ?
「ちょっと屈折したところもあるけど」
………この人も相当。
「からかわれて怒るのは素直だからだよ。だからね、つい」
と言った彼の微笑は少し寂しげに見えた。
「ノハラのまっすぐなところを見たくてからかっちゃうんだ」
「やだ、撮ってるの?待ってよ、化粧直してくるから」
「別にキリエを撮りたいわけじゃないでしょ」
バッグを手にして化粧室へ駆けて行くキリエを振り向いて本城君はそう言うと、こちらに向き直った。先刻撮影したビデオを見た彼は、右手で頬を撫でながら暫し考え込んでいたが、「あの二人をねえ」と言って苦笑した。
「苦労しますね」
いえいえ。
「あらァ、私は面白いと思うわよ」
睫毛が倍の濃さになり、くっきりと口紅を引いて戻ったキリエが椅子を引いて腰を下ろした。
「主演女優が私じゃないのが残念だけど」
「相手役いないだろ」
キリエが本城君の頭をスコンと叩いて、シオが「フフフ」と笑った。彼らはテーブルの上の台本を手に取って開き、顔を見合わせた。
「何これ、真っ白じゃない」
「シオ、蒼葉さんは何て言ってた?」
「どーせ桜木はアドリブで暴走するからシチュエーションだけでいいと言った」
「だったらいらねーだろ台本!」
彼は台本を床に叩きつけ、シオが「気分を出す小道具」と言うのを聞いて、……憐れむようにこちらを見た。
「苦労しますね」
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