天使とチョコとビデオテープNote

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「もう撮ってるの?」
 彼は煙草を消して、「この辺でいいかな」と窓の前に立った。
「読者のみなさんこんにちは。『いぬみみうさみみ』の逢坂です」
 カメラに向かって笑顔でお辞儀。
「今回は『いぬみみ』一話の修正箇所を当てるというクイズ…って言わないだろうな、まちがい探しの正解者に『何かやる』と言った手前、やらざるを得なくなった企画ということで……え?」
 笑い声がして、彼はそちらを振り向いた。カメラを向ける。ストーブの周りに椅子を置いて座り、お茶を飲んでいた本城君とキリエがこちらに手を振った。シオは何がおかしいのか判らないという顔だ。再びカメラを逢坂君に向けた。
「えー、先程ご覧いただいたビデオは、アンケートできっぱりと『変態が好き』と度胸ある回答を送ってくれた月島さくらさんのために、本編とは無関係な桜木さんのプライベートシーンを撮りたかったんですが……」
「謎だよね、存在自体が」と本城君が言い、逢坂君は「さあ、それは」とストーブの前に椅子を運んで腰掛けた。
「さっきのはどこで撮影したの?」
「僕ら三人の分はうちで撮った。ノハラも背景が彼女の部屋だったね。シュウヘイは?」
 手元のスケッチブックに書いて答える。『駅前のマク●ナル●』。
「そういえばシュウヘイってどこに住んでるのか私知らないわ」
「僕も」
「僕も知らない」
 逢坂君が立ち上がって「自治会名簿に載ってるんじゃない?」と、棚から名簿を抜き出して開いた。
「ははは……桜木さんだけ載ってない」
「……てことは、蒼葉さんも知らないんだ!」
 全員愕然。
 更に名簿を見ていた逢坂君が目を丸くした。
「へえ、大学二つも出てるんだ」
「あいつ今いくつだよ」
「二十八くらいって書いてある。……くらいって何」
「二年勤めてないの?退職金も出ないだろう。ノハラが嫌がる気持ちが判る…」
「ちょっと待って。リュウタの弁護費用ってHAHに借りたんじゃなかった?」
「よく辞められたよなー」
「すごい人だ……」
「うん。すごいとしか言い様のない人だよな……」
 全員絶句。
 スケッチブックに書いておいた指示を彼らに見せた。「ああ、はい」と逢坂君が向き直る。
「えー、そんなわけで、桜木さんの私生活が不明ということで撮影出来ませんでした。それで『天使』出演者のみなさんに、バレンタインデーも近いということで」くすっと笑う。「一言ずつコメントしてもらったんですが……どうして黒沢さんは撮ってないの?」
 書いて答える。『興味ないそうです』。
「タイトルは映画のパクリでしょう?」
 『Yes.』
「さて、ここで問題です。撮影しているのは誰でしょう」
 カメラを持ったまま書く手元を覗き込んで彼はふふっと笑った。スケッチブックを渡す。それを彼がこちらに向けた。
 『正解しても何も出ません』


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佐倉蒼葉 2001.2.4
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