cosmic cafe

 第一印象は最悪。
 いきなり「あなた、人なの?」はないだろう。
 人だよと答えて憤慨して帰った後、いかに自分の環境が恵まれたものだったかと気が付いた。




 身近に居なかったタイプ。今も他には居ない。
 すらりとした手足のしなやかな動きや瞳の強い輝き。
 なるほど薔薇の姫君。
 それも真紅の天鵞絨の。
 どちらかと言えば開きかけの花びらの奧に頑なな蕾を隠した薔薇。




 敢えて言うなら近親憎悪。
 感じていたのはそういう視線。
 ある意味で対極ほど似ているものはないからね。しかも腹の立つ対象として!




 そういえば本を借りっぱなしだ。




 適度な距離の所に座って本を読む。
 最近ではそれが気楽になってきた。ただ僕は人前で本を読むのはどうしても出来なくて、ぼうっと煙草吸ったり。
 人のことはお構いなしのようでいて、いつもぽつりと話しかけてくるのは彼女の方。




 彼女の名誉の為に言うと、前はいつも僕から話しかけていた。
 気楽になったというのはそういうこと。
 一緒に居て、互いに独りで、気にならず、気にする。




 紅茶から立ち昇る湯気がゆっくりと渦を巻いて、それが一角獣の耳元を飾る冬の赤い薔薇を思わせる。僕らは遥かな銀河を挟んでお茶を飲む。




 僕はぽつりと宇宙に浮かんでいる。
 けれど感じる離れた星からの引力。




 両手でカップ持ってふうふうとお茶を冷ましてるところなんか見ちゃうと、うっかり棘のあること忘れてしまうよ。









この話はARL3500打者・高崎麻子さんのリクエスト“姉妹内キャラ共演”にお応えして書きました。
前回の『明日の行方』では、大阪に住む諒介が京都のまるめろを訪れるという設定でしたが。
今度は誰が京都へ行けるだろう?


もう一度大阪在住の和泉諒介。
大阪出身の澤田智彦。
写真家・伊野信吾も仕事で京都に行ったりするだろうし、それゆーたら日本画の大家・高畠深介も講演会だの何だのにかこつけて京阪に遊びに行くだろう!
↑コピペ。


そんなわけで今回は、ラジオに美音子姫の印象を語ってもらいました。
二人がいつどこで会ってるかなんて野暮は言いっこナシよ。(はーと)


「一角獣」は、いっかくじゅう座。肉眼では見づらい星座ですが、冬の大三角形の真ん中に位置しバラ星雲を抱えていることで有名。ラジオらしい連想です。










最初に会ったときから奇妙な感じがした。どうしてここにいるのだかわからなかった。
気が付いたら見たまま思ったままそのままを口に出していた。
「あなた、人なの?」
怒鳴りつけられたその時は無性に腹が立っていたから事実の特異さに気が付いたのはずっと後のこと。

あたしの猫はそんじょそこらのやわな仔猫とは訳が違う。
なんたって年期が違うわよ。物心つくかつかないか、の子供の頃から宥めて躾けて慣らし込んで今まで生きてきたのだから。
そうでなければやっていけなかったのだもの。
どんなに妙だと思ってもどんなに気に食わなかったとしても笑顔でさらっと見ない振りくらい訳はない。筈。
なのに。
初対面で猫引き剥がされる、なんて。それも無意識のうちに、よ。

最初は顔を見るだけで、自分の頬が引きつる気がした。
あたしが制御不能になって手に負えない。
・・・そういうことは彼が居ないときでもそりゃああったけど。

いつ会ったって笑っているの。
自分の声が出ないときに、他人のことばかり考えて。
足元ふらついて立っていられないような時だって、自分の体調より人の涙の心配をする。
それで自分が体壊してたら仕方ないと思わない? 本末転倒もいいところだわ。
呆れるでしょう? ばか、としか言いようがない。

他人のことを考えるならまず自分を愛してあげなさい。
祖母に昔諭された言葉を思い出して言おうとしたけど柄じゃないってやめた。
人のことは言えない。

ヒトであることにさほどの価値を感じずとうに投げ捨てたあたしと違って「人」というものを至極大切に思っているのだと、聞かされたのはしばらく経った後日の話。
ひどく彼らしい気がして笑った。

今だってそう、彼が居るだけで調子が狂う。
ただ・・・そう。ひとつ認めたら楽になった。

座り込んで本のページを繰っているとお茶が差し出される。
黙ってそのまま読み続けていると少し離れた場所からギターの旋律とうたがきこえる。
そんなことも増えたかもしれない。
そういえば不思議ね、腫れ物に触るような扱いをされたことだけはない気がする。変な人。

嫌いよ。今だって好きじゃあない。本当よ。

喉が破れるまでうたうのだけはやめなさいよ、似合いすぎて恐ろしいから。
言ったってきっと無駄だろうから言ってやる気はないけど。









続いてお届けしたのは、高崎麻子さんによる「美音子から見たラジオの印象」です。
先の「ラジオ視点の語り」へのお返しとしていただきました。
あらためまして高崎さん、ありがとうございました。
美音子のことは皆「姫」と呼んでいました。「明日の行方」の人形少女、それが美音子です。
人形のように美しい外見と高い気位で、近寄りがたいムードのある少女でしたが、アサコちゃんが描いた通り、本当は猫をかぶって「強くなければ」と懸命な、ちょっと素直になれないだけの可愛らしいところのある子です。気位が高いのは「自分は強くあらねば」という、無理もしている心の裏返しです。
要するに、すごく可愛いんですよ。可愛いなんて言ったら姫のご機嫌を損ねそうですが。(笑)











Aoha Sakura 2001.5.30/Asako Takasaki 2001.5.31

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