『時を洗う』


時を、洗う、その作業
慣れた手つきのあなたはすでに老人であり
わたしの若さは
そのぶんだけ孤独の砂をひっかくのだ

あなたは黄土の上にすわりこみ
もう十年もこうしている
懐古の吐息が黄土を砕き
それらの破片を篩にかける
……そう 慣れた手つきで
その慣れ が
あなたを老いさせたのか あるいは
老いゆえに慣れるのか……
黄土は砂となり折からの風に
 舞い上がる。
空を黄に
雲を黄に
染めて───あなたは涙する、
あなたの色鮮やかなおもいでは
また一枚 風化するのだ
もう動くことのない一枚の
風景画、に。

そしてあなたは再び吐息をつく
作業を続けるために

あなたはわたしと同い年の顔をした老人であり
しかしわたしの若さにできることは
あなたの風景画にフィクサチーフを吹きつけることだけだ
もう 何も変わらないでくれ……と


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