『夏の朝 またはDREAMLIKE』


ドアの外はミルク臭い夏だった

野球帽を乗せた自転車が行き交うだけだった

信号が働き続けることは無意味かもしれない
横断歩道を
渡るいきものの姿は見えなかった

ドアはもう100m後方まで漂っていった

戻る部屋はない と覚悟を決めた

バス停の時刻表は風に吹きちぎられたのか
いつになっても
バスがやってくる気配はなかった


ぽっかりとまるく浮遊する吐き捨てられた声の塊が
熱せられたホタル石のようにほのかに光を放っている

音(おん)の分子と分子が集まり言葉を形成したその時
そのひとことは 色褪せてしまう

だから
もう誰れも なにを言うこともなくなった
残された言葉だけが光り輝こうと懸命だった


わたしはかなしくはなかった
漂う言葉をみつけるといくつかポケットに入れた

これで旅支度はととのったと思った
風向きを嗅いで
バスの路線に沿って歩いてゆくことに決めた


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