『おもう』


そうか
あなたがいつも笑っているのは
かなしみに目を細めて もっと遠くを
見ようとしているのか とそうおもう
そのかなたにはいつものとおり
都電が走っているだろう
ゆっくり走っているだろうとおもう
線路の上にはかげろうがゆらぎ
たとえば昔という絵がくるくる移っているとおもう
あなた(もちろん、あなたの空想する)を乗せた
都電はかげろうをふりはらうように発車し
僕は向原のホームで手をふるんだろうとおもう
あなたは手をふることはないとおもう
何か言いかけて でもにっこり笑って
そっと触れた窓ガラスに緑が流れるんだろう
夏が光っているんだろう
あなたは泣かないだろうとおもう
僕は泣きたくなるだろうね
だから
あなたがいつも笑っているように
目を細めて かなしみにもっと遠くまで
かげろうにゆらぐ都電を見送っているだろうと
そうおもう


next page || index