『嗚呼』


嗚呼と声を漏らして両目をぎゅっと瞑る。
此処は独りきりの暗闇である。
瞼を強く閉じて開けてはならない。
眩い光が差す場所など見てはならない。
今がいつで此処が何処なのか知ってしまえば、
足下の地面はひび割れて崩れ、おまえは落ちるだろう。
それも初めてのことではないのだから、
おまえはもっと慎重になるべきだ。
目の前のお菓子のような優しさが欲しいのかい?
空からぶら下がった菓子は誰が垂らしているのか知ってるかい?
戯れに釣られ、水上に引き上げられたおまえは、
苦しみに身を捩っていると、「此れは外道だ」と判定され、
また水の中に投げ入れられるだろう。
なのにまだ迷うのかい?
本当はもう答えを得ているのに気づかないふりをしてることも、
おまえは知っているさ。
おまえのその白い服は壁や床、天井と同じ色であり、
この部屋には扉も窓もない。
この部屋から出る術はただ一つ、嗚呼と声にして、
両目をぎゅっと瞑り、そして何も考えないことだ。
おまえときたら、この闇と光の二つの部屋を行ったり来たりだ。
一つ哀れに思うのは、おまえが風を久しく感じたことがないことだ。
かつておまえが感じていた風は、強く激しく狂おしい愛情に満ち、
それはおまえの回路をも狂わせたが、狂気は即ち幸福でもあった。
だが今は四角い白い部屋で、無風を感じてただ佇んでいる。
おそらくおまえが死ぬまで其処を出られることはないだろう。
その壁を叩き壊せる人間がいるとしたら、
否、ありもしない話はやめよう。
もしおまえがもう少し人間らしくいたいと望むなら
嗚呼と嘆くがいい。
壊れたおまえは、息絶えた亡骸と、狂気に変わった憎しみの塊と、
平凡に生きる仮の姿に三分割されているが、
その一欠片の人間の姿に、おまえは泣くことを禁じている。
それを解放せよ。
かつておまえが言ったことだが、
孤独にもフェイクがある。
真贋はおまえが決めるのだ。
嗚呼と声に出してそれを確かめるがいい。
終わりは常に始まりであることを思い出すだろう。
生とは瞬間に完結する時間の連続だと思い出したなら、
諦めて生きろ。




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