『時を失くした人形』


時を奪われ
私は人形になりました
心を失い
眠りもせずに
身動きもできないまま
歳もとらなくなりました
目に映るのは
ただの事象ならよかったのに
時を奪われて
ループする記憶しか見えません
それは悲しく
とても悲しいのですが
人形には涙がありません
せめて
ガラスケースに守られていたらいいのに
埃の積もる部屋の隅で
がらんどうの景色を見ているしかないのです
誰か
私の頭の後ろに穴を開けて
水を注いでください
涙の代わりに
それを目からこぼしますから
だけどこんなドアもない部屋に
誰も来ません
私の目は乾いて
まぶたを閉じることもできずに
目がとても痛いのです
痛くて涙が滲むような気もしますが
それだけのことです
何もかも気のせいならよかったのに
これは現実です、私は人形になりました
夜が来て朝が来て
一日にさようならと言いたいのに
同じ一日がまた始まります




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