『哀歌(エレジイ)』
振り返ったときにはもう、
光の粒がすぅーと横切るばかりで
そのひとの影は跡形もなく
黄昏に街は沈もうとしていました。
オレンジ ブルー バイオレット ……白
光の粒が、集合して重なりあって空に織り上げた
布 その布が、芝居の終わりのときのように
街に降りてきます。
もう、おしまいなんです。
哀しげな歌が、ひたひたと街を包み込む
その寒さに、灯りがともり始めます。
影は夜に呑み込まれて
そのひとだけが黒の上下に身を包んで、
夜へと影のあとを追っていきます。
オレンジ ブルー バイオレット ……白
光の布を背にしたそのひとのシルエットが、
くっきり。
影を追うそのひとの黒の上下もまた
くっきりとシルエット。
影はどこ? もしかしたらその人自身もまた
夜に呑み込まれた影。
街灯りだけがやけに眩しい夜へと。
すべては沈んでゆきます。
振り返ったときにはもう、
オレンジ ブルー バイオレット ……白
光の布も夜に染まってゆくところで
歌が、哀しげな歌がそのひとのあとを
ついてゆくのでした。